野ぶたのつぶやき

野ぶたの日々を淡々と

戦狼・口嫌体正直

20XX年。

中南海へ向かう官用車の中で、自分が「口嫌体正直」と呼ばれ日本中のイキリオタクどもから揶揄された、日本・大阪でのあの屈辱の日々を思い出していた。

 

中南海の奥まった一室に入り、意見を問われた彼はこう答えた。

「まず大阪は人口こそ多いものの、国への忠誠心は昔から今に至るまで低い。先の戦争でも『大阪の兵隊は弱い』というのが通説でした。」

「そして食に対する執着も強い。『大阪の食い倒れ』という言葉は聞いたことがあるでしょう。数は多いが戦力にならず限られた糧食を食い尽くす、それが大阪の民であることをご理解いただけたと思います。ですから…」

 

話を聞いてもらえているらしい。その反応を見ながら彼はこう続けた。

「大阪への総爆撃は我が国が今優先すべき課題ではないと考えます。」

 

話を聞いていた面々が日本の様々な地名をつぶやくのを見ながら、彼は様々なことを思いめぐらせていた。

日本橋とらのあなで逸品を見つけたときの感動、独りよがりのお節介をためらいもなく見せつけてきた難波ターミナルのおばちゃん、近い将来派遣されるであろう日本駐留軍に大衆文化担当顧問として同行し文化資料購入名目で日本の漫画・アニメ資料を買い漁るという野望。

 

それらは、国益を守るためとはいえ戦争という手段を回避し得なかった外交官としての無力感から目をそらすための何かでしかなかったのかもしれない。

ただ今できる最大限の仕事をした、その高揚感に身をゆだねられるだけの男に彼は成長を遂げていた。

 

己を制御しきれずキャンキャン吠えてしまい「口嫌体正直」と揶揄された彼はもういない。真の戦狼として大阪に舞い戻る日はもうすぐなのだ。

 

※この一文はフィクションであり、実在の国家・領事館・人物とは関係ありません。