野ぶたのつぶやき

野ぶたの日々を淡々と

放送大学 「観光の新しい潮流と地域('11)」を見て

以前録画していた、放送大学の「観光の新しい潮流と地域('11)」って放送を最近まとめ見したのです。日中関係が劣悪化する前の制作で、東日本大震災時には放送が完成していたので震災も反映されていない、という事情はあるにせよ、十分今でも見られる放送内容。

「長期滞在型の”リゾート”が根付かなかった日本では、長らく団体で観光地巡りをする”マスツーリズム”が観光業を支えてきたが、それはバブル崩壊のあと減少し観光業は停滞している。マスツーリズムが目を向けてこなかったニッチな需要に応えるなどの”オルタナティブ(代替的な)ツーリズム”に目を向けていくべきだ」

というのが大まかな趣旨だったのですが、その中で中国人観光客について触れられていた回が特に印象深かった。

 

「日本に来る中国人観光客は確かに年々増えてるけど、それは”海外旅行できる中国人”が増えたのに比例してるだけだ。”日本に行きたい中国人の比率”は別に増えてない。」という趣旨のことを言ってるのを聞いて、内容を理解し納得しそして考えさせられた。

中国人観光客を見る機会は明らかに増えているのです。それは「”日本に行きたい中国人の比率”が劇的に下がった」今年の春節(旧正月)ですら数は増えている。その大半は有名観光地をマスツーリズムで回り旧来型の観光業者に一息つかせているのでしょうが、一部の人間がマニアックな観光地を回っているらしい、ということも感じている。

 

この「マニアック観光地を回る中国人観光客」というものをどう捉えるべきなのか、放送を見て改めて考えさせられたのです。

「”海外観光できる中国人”が増えたのに比例して日本を訪れる人も増えた。だから、それに比例して”日本のマニアックな観光地”を訪れる人も増えただけ」だとすれば、近いうちに頭打ちするであろう”日本への中国人旅行者数”に引っ張られて、マニアック観光地への来訪者も頭打ちするはず。

しかし、中国でも「マスツーリズムからオルタナティブツーリズムへ」の流れができつつあるんだとすれば、今後も継続してマニアック観光地への旅行者がやってくる。そしてその備えがあるマニアック観光地はリピーターを掴み、逆に準備不足による粗相があればもう二度目はない。

 

現段階では、マニアック観光地にやってくる中国人観光客はむやみやたらにハイレベルで、観光地側がなにか用意しなくともあっちが勝手に準備してきてくれるのでこれといった問題は起こらないのです。しかし(イメージかも知らんが)中国人が集団行動を日本人以上に愛するとは思えないので”中国におけるマスツーリズムの時代”は日本よりも短い、と考える方が妥当でしょう。そして中国でもオルタナティブツーリズムが流行れば「マニアック慣れ」してない人までマニアックな観光地にやってくる。何か起こることは火を見るより明らかです。

 


 

トラブルを避けるために、「海外からのオルタナティブツーリズム客」を引き寄せないようにする、というのも、それはそれで一つの考え方だと思うのです。しかし、その考えに乗れないのは、私自身もうマスツーリズムに興味がないし下手にマスツーリズムすると不快感の方が上回るから。

 

ちょっと前に、とある人気観光施設に行ってきたのです。マスツーリズム時代からの名門。

施設はすばらしいものでした。「大きいことはいいことだ」はツーリズムでは理屈抜きの武器。景気のいいときに作った豪華巨大施設を劣化させることなく今に伝えている。マスツーリズムの中で勝ち抜いたところしかこういう巨大施設は維持できなかったし、それを維持できているからこそこの観光施設にはご指名がかかり、結果として人気も上がる。その好循環が理解できた。サービスも一つ一つ見ていけば、大変高いレベルで整えられている。

ただその原動力となっているのが「マスツーリズム」。そんな大団体に高いレベルで効率よくサービス提供するため、かなり細かい”役割分担”も行われていて。それは大きな団体旅行やそれと同じ気分で小集団旅行してる場合は問題なく機能するのでしょう。しかし、内心でマスツーリズムとは違うものを求めている状態の旅行者とは決して相性はよくなくて、ドツボにはまると役割分担の結果でてくる”縦割りの弊害”をモロに食らうことになる。図らずもそういうドツボにはまってしまいまして…「こんな”勝ち組中の勝ち組”でもこんなもんなんだな~」と不満や怒りよりも悲しみが上回る感情を抱く羽目になった。

 


 

おそらくはその観光施設が悪いんじゃなくて、本来の客じゃない客が行ったことが一番悪いのです。そんな不幸な出会いを避ける事ができて、施設も客も損せずにすむ方法だってちゃんとある。そこがマニアック観光地の注目すべき点であり、少なくとも自分の鼻が多少利く分野でもある。

 

「メジャーvs.マニアック」みたいな比較をすると、”まずメジャーありき”な捉え方にメジャー側・マイナー側双方が縛られてしまう。そこに「マスvs.オルタナティブ」というどっちが上か下かわからん尺度を持ち込むことで、いろんな観光をフラットに眺めることができる。

そういう「観光業を俯瞰的に眺める見方」をこの放送は与えてくれた。なかなか興味深い放送でした。